「サンクコスト」があなたの判断を鈍らせる
「この新規事業、このまま続けて本当に花開くのか…?」 「すでに多くの時間と資金を投じてしまい、今さら引くに引けない」 「客観的な新規事業の撤退基準がなく、判断できない」
このような悩みに直面していませんか?
新規事業で最も危険なのは、「ここまで頑張ったんだから」というサンクコスト(埋没費用)の罠に陥り、冷静な判断ができなくなることです。
撤退を「失敗」と恐れるあまり、ズルズルとリソース(時間、資金、そしてチームの情熱)を浪費し続け、会社全体が疲弊してしまうケースは後を絶ちません。
新規事業とは、我が子のようなものです。愛情も情熱も注いできた我が子を途中で手放すには、感情抜きの冷酷で非情な判断が必要になるでしょう。
しかし、いざ撤退するかどうかの判断を迫られたときに、感情抜きで正しい判断ができるでしょうか?サービスの生みの親にとっては、とても難しいことです。
だからこそ、感情移入がされておらず、冷静な判断ができる、事業を進める前のタイミングで適切な撤退基準を決めておくことが、重要になるのです。
【最重要】ルールの前提:あなたの新規事業の「目的」は何か?
新規事業 撤退基準 を設定する前に、まず「なぜ、あなたの会社はその新規事業を始めたのか?」という目的を明確に定義する必要があります。
撤退基準を決める際の要素はたくさんあります。しかし、もっとも重要で肝心なポイントは、その新規事業を始めた目的が、このまま事業を進める事で達成できるのか?をチェックし続ける事です。
本来の目的が達成出来た、または出来そうと言える状況はどんな状態なのかを考え、目標を設定し、その目標が達成できないのであれば撤退を判断する、という事に繋がってきます。
例えば、あなたの会社の「目的」はどれに近いでしょうか?
- 目的A:世界的なサービスを作る
→ 撤退基準(重視すべき指標):ユーザー数、市場シェア、成長速度など - 目的B:本業以外に「収益の柱」を作る
→ 撤退基準(重視すべき指標):収益性、ユニットエコノミクス、単月黒字化までの期間など - 目的C:本業とのシナジーを生む
→ 撤退基準(重視すべき指標):既存顧客へのクロスセル率、既存事業のコスト削減効果など - 目的D:社員の活躍の場(人材育成)を作る
→ 撤退基準(重視すべき指標):(短期的な赤字は許容しつつ)社員のスキル習熟度、リーダーシップの発揮度など
このように、新規事業開発の「目的」によって、撤退基準は全く異なります。 ここでは、その「目的」を達成できる見込みがなくなったと判断するための、普遍的な「ルール」をまず解説し、その後、各目的毎によくある「ルール」を解説します。
事業を継続するか撤退するかを判断する普遍的なルール
目的が何であれ、事業として成立するための「大前提」が崩れた場合、撤退(または根本的な見直し)を検討すべき普遍的なシグナルが3つあります。
ルール1:市場・顧客が「No」を突きつけた時 (PMFの兆候ゼロ)
解説
- 目的が「収益」であれ「人材育成」であれ、その事業(プロダクト)が誰にも求められていない(=顧客課題が存在しない)のであれば、継続する意味はありません。
撤退シグナル
- MVP(最小限の製品)を顧客候補に見せても「いいね」とは言うが、「お金を払ってでも欲しい」「これがないと困る」という熱狂的な反応(PMF=プロダクトマーケットフィットの兆候)が全く得られない時。
ルール2:推進体制(リーダーの熱意)が崩壊した時
解説
- 事業を推進するのは「ヒト」です。どれほど目的が立派でも、どれほど市場が有望でも、それを実現する中心人物(推進リーダー)の熱意やコミットメントが失われた時、事業の推進力はゼロになります。
撤退シグナル
- 推進リーダー自身が「この事業は勝てない」と判断し、撤退を具申してきた時。
- あるいは、経営者がリーダーに十分な裁量を与えたにも関わらず、事業が全く前に進まない(=熱意が失われている)時。
ルール3:リソース(時間・資金)が完全に枯渇した時
解説
- 事業はリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を消費して進みます。サンクコストを恐れて判断を先延ばしにした結果、会社本体の経営まで傾かせては本末転倒です。
撤退シグナル
- 事前に設定した「検証予算(例:500万円まで)」「検証期間(例:6ヶ月まで)」の上限に達し、かつルール1, 2のシグナルも点灯しており、追加投資に見合うリターン(目的達成の可能性)がないと合理的に判断された時。
目的別の撤退判断基準ルール
上記の普遍的なルールに加え、「目的」ごとに特に重視すべき撤退基準(KPI)を設定します。
目的A:世界的なサービスを作る
重視すべき指標
ユーザー数、市場シェア、成長速度(MoM)、継続利用率(リテンション)
解説
- この目的の場合、初期の収益性(マネタイズ)は問いません。それよりも、アーリーアダプター(初期ユーザー)が熱狂的に使い続け、口コミで速く(例:月次成長率30%以上で)広がっているかが全てです。成長が鈍化し、熱狂(PMFの兆候)が見られない場合は、目的達成は困難と判断します。
- またピボット(事業転換)により、収益はあっても、本来想定していた市場やターゲット層よりも小さくなってしまう事があります。そんな時に当初の目的を思い返し、厳しい判断をする必要も出てきます。
目的B:本業以外に「収益の柱」を作る
重視すべき指標
ユニットエコノミクス(LTV > CPA)、単月黒字化までの期間、収益性
解説
- これは「ビジネス」としての成立が目的です。顧客1人獲得するコスト(CPA)が、顧客が生む利益(LTV)を上回り続ける(=ユニットエコノミクスが赤字)場合、事業を拡大するほど赤字が膨らみます。CPAの改善やLTVの向上策を打っても赤字体質が解消されず、計画した期間内に単月黒字化への道筋が見えなければ撤退を判断します。
目的C:本業とのシナジーを生む
重視すべき指標
既存顧客へのクロスセル率、既存事業のコスト削減効果、本業への貢献度、既存事業の利益 > 新規事業への投資額
解説
- この事業単体での黒字化が第一目的ではありません。本業(既存事業)に対して「どれだけ貢献したか」が基準です。既存顧客がこの新サービスを全く利用しない、既存事業のプロセスが全く効率化されないなど、数値としてシナジー(相乗効果)が現れない場合は、この事業を続ける(リソースを割く)存在意義がなくなります。
- また既存事業への貢献度が新規事業への投資額を上回っているかどうかの確認も必要です。貢献度ばかり見て、実は投資額が貢献度を上回っていたとしたら本末転倒です。
目的D:社員の活躍の場(人材育成)を作る
重視すべき指標
(短期的な赤字は許容)、社員のスキル習熟度、リーダーシップの発揮度、当事者意識
解説
- 短期的な売上や利益は撤退基準になりません。「事業を推進するプロセス」そのものに価値を置きます。担当社員が新しいスキル(例:マーケティング、PL管理)を習得したか、リーダーシップを発揮してチームを率いたか、といった「人の成長」が全く見られない場合(例:やらされ仕事になっている、挑戦から逃げている)、目的未達と判断します。
- 普遍的なルール2にも関係する事ですが、担当者やチーム自体が前向きに取り組むことが出来ているかが大前提となります。そもそも学習意欲、成長意欲がなければポジションや環境を与えても人材は育成されません。
まとめ:撤退は「失敗」ではない。「目的」を達成するための戦略的判断である
新規事業 撤退基準 は、あなたの会社の「目的」を達成するための羅針盤です。
撤退は「失敗」ではありません。傷が深くなる前に判断し、貴重なリソース(情熱・資金・時間)を「次に勝てる(=目的を達成できる)事業」に再配分することは、経営者の最も重要な「戦略的判断」です。
このようなことで悩んでいませんか?
- 「自社の新規事業の『目的』が、実は曖昧だったかもしれない」
- 「情熱とサンクコストが邪魔をして、冷静な判断ができずにいる」
- 「撤退すべきか、ピボットすべきか、相談できる『壁打ち相手』がいない」
泉州グロースパートナーズは、COO/CMOとしての事業推進経験に基づき、あなたの新規事業の「目的」の整理から「撤退基準」の設定、次のアクションの意思決定までを伴走支援します。
一人で悩んでいても、サンクコストの罠から抜け出すのは困難です。
客観的な「壁打ち相手」として、事業の「次の一手」を一緒に見つけます。
